家づくりもSDGs!これから建てるべき快適・省エネで持続可能な住まいとは?
2023.08.28
2022.07.14
住まいとSDGsの関係性は?
全世界でSDGsが注目されている今、「持続可能な社会の実現」に向けた家づくりの在り方とは?いったい何が求められているのでしょうか。
そもそもSDGsとは?
世界中の人々が持続可能でよりよい生活を送るため、そして、次世代に住みよい世界を引き継いでいくためには、世界全体で取り組み、解決すべき課題がたくさんあります。
2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」には、貧困や飢餓を終わらせて持続可能な農業を促進することや全ての人に質の高い教育を確保すること、気候変動への対策を講じること、持続可能な経済成長や働き甲斐のある雇用の促進、陸上や海洋資源の保全や持続可能な利用の推進など、17の目標が掲げられています。
SDGsは「Sustainable Development Goals」の略語で、貧困やジェンダー、気候変動やエネルギー、教育など、世界全体で取り組むべき17の目標とそれらを達成するための具体的な169のターゲットから構成されています。
気候変動を食い止めるために、住宅の省エネ化は必須
私たちの暮らしに大きく関わる目標として「気候変動への対策」があります。
世界の平均気温は2017年時点で工業化以前(1850~1900年)と比べて約1℃上昇したとされています。このまま何もしなければさらに気温は上昇し、豪雨や猛暑といった自然災害のリスクが高まり、農作物や経済活動に影響が及ぶことが危惧されています。
気候変動を食い止めるためには、原因となる「温室効果ガス」の排出量を減らすことが不可欠。日本では二酸化炭素(CO2)をはじめとする温室効果ガスを年間で11億トン以上排出していますが、これを2050年までに実質ゼロにする「2050年カーボンニュートラル」という目標を掲げ、脱炭素社会の実現に向けた動きを加速させています。
CO2排出量を減らすためには、とにかく「エネルギー消費量を減らすこと(省エネ)」が大切。家づくりにおいても太陽光発電などの再生可能エネルギーを導入してエネルギー収支ゼロを実現するZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の普及や既存住宅の断熱リフォームの推進など、省エネ化が進められています。
省エネ化と共に考えなければならないのが住宅寿命の問題。
高度成長期、日本では住宅が大量に生産、短期間で廃棄されてきました。アメリカ、イギリスなどの住宅の耐用年数が60~80年と長いのに対し、日本の住宅は非常に短命。
これでは建てる人の経済的負担はもちろん、建てては壊すを繰り返すスクラップアンドビルドによる環境負荷も大きくなります。家は住んでいる間だけでなく、建設時や解体・廃棄時にもたくさんの資源やエネルギーを消費し、CO2を排出するからです。
では、地球環境に負荷をかけず、快適かつ省エネ、健康に暮らせて、長く住み継げる家を建てるためにはどうすればいいのでしょうか?
ここからは、SDGsの17の目標の中でも特に家づくりに関わりの深い6つの目標を取り上げ、どのような取り組みを行えばSDGs達成、持続可能な家づくりの実現につながるのか紹介します。
室間温度差のない家で住む人の健康を守る
家は住む人の健康や命を守れるものでなければなりません。
例えば快適な温熱環境。室内の温度差を減らすことで、ヒートショックなどの健康被害を防ぐことができます。外気温に左右されず、室内の温度差が少ない家にするために大切なのが「断熱・気密性能」。
断熱材を施工して熱を伝わりにくくし(断熱)、隙間をなくして空気の出入りを少なくする(気密)ことで冬暖かく夏涼しい家にします。
断熱・気密性能を高めると計画換気をきちんと行えるようになるので、室内の空気がきれいになり、ダニやカビ、ハウスダストなどによる健康リスクからも住む人を守ることができます。
特に重要なのが「気密」です。いくら断熱性能を高めても、気密性能が低い、つまり家の中に隙間が多ければ省エネ住宅にはなりません。
隙間があれば冷暖房した空気は外に逃げ、外気が流入するので、冷暖房効率の悪い家になってしまいます。断熱材が隙間なく施工されて初めて、少ないエネルギーで暮らせる家になるのです。
気密性能は1㎡に何㎠の隙間があるかを表すC値(相当隙間面積)という指標で表されます。C値5.0㎠/㎡であれば1㎡に5㎠の穴が開いている状態。
隙間の大きさをハガキの枚数にしてみると、その違いがよく分かります。C値は「気密測定」をしなければ確認できず、建物によっても異なるので一棟ごとに実測が必要となります。
では、断熱・高気密性能が低い家は実際どうなのでしょうか?
断熱・気密性能が低い家は、壁・床・天井・窓など建物の表面温度が低く、そこに熱を奪われているため「暖房しているのになんだか寒い」と感じます。一方、断熱・気密性能の高い家は室温と建物の表面温度の差がほとんどないので、同じ設定温度でも暖かく感じます。
例えば、断熱・気密性能の低い家の表面温度が10℃とすると、室温は20℃でも体感温度は15℃と5℃も低くなります。一方、断熱・気密性能のの高い家では室温20℃に対して表面温度が18℃とすると、体感温度は19℃と、ほとんど差がありません。
断熱・気密性能が低いと、いくら暖房しても体感温度が低いため、体調に影響が出るのはもちろん、必要以上に暖房してしまうため光熱費もかかることになります。
持続可能なエネルギーの開発・普及でCO2を削減
経済発展や人々の健康を維持するためには、すべての人が安価かつ持続可能なエネルギーを使えるようにすることが必要です。電気は主に石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料からつくられていますが、これらは近い将来枯渇すると予想されています。そこで進められているのが太陽光や風力、地熱、バイオマスなどを利用した「再生可能エネルギー」の技術開発と普及です。水素を利用したクリーンエネルギーの開発も進められており、家庭用燃料電池などに使用されています。
持続可能なエネルギーの開発・普及とともに取り組まなければならないのが「省エネ」。日本における最終エネルギー消費の約3割は民生部門(業務・家庭部門)が占めており、住宅の省エネ化は必須です。エアコンに頼りすぎず一年を通して快適に過ごせる家を建てることで、化石燃料の消費削減とCO2排出量の低減につながります。
2025年度の省エネ基準適合義務化を皮切りに、2030年には「ZEH」が住まいのスタンダードとなります。さらに、建設から廃棄までライフサイクルにおけるCO2収支をマイナスにする「LCCM住宅」の普及も進めていかなくてはなりません。
全ての人が安全・安心して暮らし続けられるまちづくり
全ての人が安全かつ安心して住み続けられるまちにするためには、地震や台風などの自然災害への対策が欠かせません。
SDGsでは災害による死者や被災者数を大幅に削減し、経済損失を大幅に減らすことを目標に掲げています。まちを構成する住宅は自然災害に耐えうる耐震性や耐風性があることが必要です。災害発生後にはインフラ等が復旧して生活支援が受けられるようになるまでの数日間自活できるよう、太陽光発電や蓄電システムなどを導入して停電時でも電力を確保し、一定期間住み続けられる強靭さをもつ「レジリエンㇲ住宅」であることも重要です。また、大気の質や廃棄物の管理に注意を払い、都市の環境への悪影響を減らすことも求められています。
長寿命な家づくりで資源を守る
世界が今、抱えている地球環境や貧困の問題を解決するためには、食料や資源の持続可能な消費と生産を行うことが必要となります。限りある食料や資源を大量に消費して生産し、使い終えたり余ったりしたら大量に廃棄するというこれまでのやり方を転換し、無駄遣いすることなく生産して排気量を減らすことが求められます。身近なところで言えば、食品ロス削減やレジ袋を減らすためのマイバックの持参もこの目標達成のための取り組みのひとつです。
食品や物と同じように住宅もこれまでの日本は大量に生産、短期間で廃棄されてきた現実があります。環境のことを考えると、これからは、耐久性・耐震性が高く、ずっと快適に暮らせて、かつ次世代まで住み継いで行ける長寿命な家を建てなければなりません。
そのためには材料選びも重要です。
できるだけリサイクル、リユースできるものや土に還る自然由来の素材を使うことで、廃棄処理にかかるエネルギーを減らせます。
また、初期コストがかかっても、メンテナンスがあまりかからない材料を選ぶことで、改修費用や廃棄による環境への負荷を減らせます。
家は”ライフサイクルコスト”で考える
「ライフサイクルコスト」とは、建築費などのイニシャルコスト、住み続ける間かかる光熱費などのエネルギーコスト、建物の修繕、解体にかかるメンテナンスコストをあわせたもの。
ライフサイクルコストを全体から見れば、建築費は氷山の一角。住んでからかかるコストは見えにくいですが、長く住めば住むほどその割合は大きくなります。
もし建築費を抑えようと断熱・気密性能をおろそかにすれば、夏暑くて冬寒い、光熱費のかかる家になり、耐久性も考えずに選べば将来メンテナンスコストに苦しむことになるかもしれません。
カーボンニュートラルを実現するために、これからはエネルギー消費量やメンテナンスコストを抑えられ、地球環境に負荷をかけない、まさに「持続可能な」住宅を建てることが求められています。
「2050年カーボンニュートラル」の実現を
地球温暖化など気候変動の原因となっている温室効果ガス。この排出量と森林の光合成などによるCO2吸収量のバランスをとり、実質ゼロにする「カーボンニュートラル」が進められています。
家づくりにおいては、これまでより断熱性能を高め、太陽光や風など、自然の力を活用するパッシブデザインを採用することでエネルギー消費やCO2排出量を抑えるとともに、太陽光発電などの再生可能エネルギーを導入して創エネすることでエネルギー自給率を向上させ、一年を通して省エネかつ快適に過ごせる家を建てることが求められます。
パッシブデザインとは…?
断熱・気密性能と共にこれからの住まいに不可欠となるのが、自然の力を活用する設計手法「パッシブデザイン」。
例えば季節によって変わる日射角度や風の吹き方などを踏まえて建物や窓を配置し、大きさや種類、軒の長さや角度などを設計。夏は日射を遮って室温の上昇を抑え、冬は取り込んで室温を上げます。
窓を開ければ風が気持ちよく通り、照明なしでも昼明るい室内を実現することができます。
そうすれば、冷暖房機器や照明機器の使用エネルギーを最小限にでき、夏に快適かつ省エネな家になります。
「通風」「断熱」「昼光利用」「日射熱利用暖房」「日射遮蔽」。この5つのデザインをバランスよく建物に組み込むことが重要です。
★パッシブデザインに必要な5つの中身
【通風】
風を行き渡らせ、室内にたまった熱を排出させるのに欠かせない「通風」。地域ごとの風の向きを踏まえて建物内での風の動きを予測し、窓の配置や大きさを計画します。
風を呼び込む袖窓や出窓、ウインドキャッチャーを設置して風を取り込んだり、吹き抜けや高窓を設けて立体的に風を通すことで家の中にたまった熱を排出することも重要です。
【断熱】
↑基本は断熱により熱を室内に入れず、涼しさ・暖かさを逃さないこと
パッシブデザインのベースは「高断熱・高気密」。外壁、屋根(天井)、床、窓の断熱性能を高め、建物の保温性能を上げます。
特に冬の暖房によるエネルギー消費量は多いので、冬暖かい家にすることは省エネにつながります。また、窓は家の中で最も熱が出入りするところ。断熱・遮熱性能の高い窓の採用は、断熱材の施工とともに欠かせません。
【昼光利用】
↑欄間を取り付け、採光・通風を確保
昼間に太陽光だけで明るい室内を実現することで照明エネルギーを削減。
リビングなど昼間に長く過ごす場所には2面以上に、それ以外の場所にも1面以上に窓を設けるのは基本ですが、室内の奥まで明るさを取り込める吹き抜けやトップライト(天窓)、高窓を設ける、中庭を作る、欄間や室内ドアから光を通すといった方法もあります。
【日射熱利用暖房】
↑蓄熱性の高いタイルやコンクリートなどを床材に使用することで窓からの日射熱を蓄え、室温の下がる夜間に熱を放出させて室内を温める
冬に窓から日射熱を取り込み、その熱を蓄えて主に夜間、暖房として利用します。
日射熱を取り入れる「集熱」、逃さないための「断熱」、蓄える「蓄熱」の3つが実現できれば、室温の変動が小さくなり快適性が向上し、暖房エネルギーの削減にもつながります。
日射量には地域差もあり、立地条件も大きく関わるのでそれも踏まえて検討しなくてはなりません。
【日射遮蔽】
↑季節ごとの日射角をふまえて軒や庇の長さや角度を設計し、夏は日射を遮り、冬は取り入れて暖かさを確保する
夏の涼しさと省エネを実現する為には、日射を窓から室内に入れないことが不可欠。
夏の昼間の太陽は高度が高いため、軒や庇をつけることで直射日光の多くは防げ、日射熱をカットできれば、冷房に使うエネルギーを減らすことができます。いかに夏の日射を遮れるかが快適性を左右するポイントとなります。
持続可能な森林維持のために身近な木を使う
木造住宅に不可欠な木。日本は3分の2が森林ですが、これまで日本の家づくりに使われている木材の大半が安価な輸入材でした。木が使われないと、林業事業者が減り、健全な森林維持ができなくなってしまいます。2021年度以降、輸入材の価格が高騰するウッドショックを機に国産材の需要が増加。国産材を使うことで国内の森林はもちろん輸入先の森林をも守り、地球温暖化など世界的な問題解決にもつながります。
さらに、CO2を吸収し、酸素を作り出す役割も担っている森林を守ることは、気候変動対策としても大きいです。また、地元産の木材を使うことで、運搬時のCO2排出量やコストが削減でき、地元経済の活性化にもつながるというよい循環が生まれてきます。
これから建てるべき住まいとは?
2025年度から省エネ基準の適合が義務化されることが決定し、世界に比べて低かった断熱性能レベルも断熱等性能等級6、7の新設により引き上げられるなど、2022年は家づくりにおいて変革の年となりました。
SDGs、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた世界的な意識の高まりを受けて、日本の住宅の省エネ化はこれから一層加速していくことになるでしょう。
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