夫婦で住宅ローンを借りた場合の負担割合はどう決める?
2022.09.27
2022.09.28
ご夫婦が共働き世帯の場合、住宅ローンを夫もしくは妻の単独名義で組むこともできますし、夫婦の収入を合算して住宅ローンを組むこともできます。単独名義で組んだ場合は比較的シンプルですが、夫婦の収入を合算して組んだ場合は、いろいろと複雑な問題が出てきます。
夫婦2人の名義で住宅ローンを組むと、家の所有権も2人で持つこと(=共有名義)になり、どちらがどれだけの所有権を持っているか「持分割合」を決める必要があります。
「持分割合」って、なに?
土地を購入したり家を新築した場合、必ず「登記」という手続きが必要となります。登記とは「登記簿」に土地や建物等の公式な情報を載せることをいいます。登記簿の情報には、誰がその住宅を所有するのかを示す「名義」という項目があります。
「名義」を
単独の名義(夫か妻か、どちらか一人だけの名義)にするのか
共有の名義(夫と妻、二人の名義)にするのかを決める必要があるのです。
一つの不動産に対して複数人を所有者として登記をすることを「共有名義」いいます。
共有名義の不動産を分轄して所有することができればいいのですが、それはかなり難しいことです。そこで、夫婦がそれぞれどのくらいの割合で所有するかを示す「持分登記」が必要となってきます。
★登記手続き上、持分についての制限はありませんので、どんな割合でも登記することはできます。
例えば、
ご夫婦のどちらかが住宅取得資金を全額負担した場合でも、持分を半分ずつにして登記することはできます。ただし、その場合、税務署から夫婦間の贈与とみなされて贈与税をかけられてしまう可能性があるのです
簡単に「夫婦2人で住む家だから半分半分の所有権にしよう」とか「夫が支払うけど妻の所有権が100%でもかまわない」とはいかないのですね。?
「持分割合」とは、住宅の所有権の割合を表すもの
「負担割合」とは、住宅ローンを含めた住宅取得のために出資した金額の割合
⭐取得した土地と建物の所有権の持分登記の時には、資金の負担割合によって持分の割合を決める必要がある
⭐共有持分を出資額にあわせて設定しないと贈与税が課税される可能性がある
夫婦の収入を合わせて住宅ローンを組むときの借り方別「持分割合」「負担割合」
夫婦の収入を合わせて住宅ローンを組むときの借り方としては次3つのケースがあります。
①ペアローン
②収入合算 連帯債務型
③収入合算 連帯保証型
それぞれの場合の「持分割合」「負担割合」はどのようになるのでしょうか?1つずつ見ていきたいと思います。
「頭金」を出した場合の持分はどうなる?
どの借り方のケースであっても「頭金」を出資した人は、その分の所有権を持つことになる
Q 結婚後、夫婦が協力して貯めてきた貯金から頭金を出した場合はどうなるの?
その貯金を預けている口座の名義は誰なのか?
頭金を出した口座の名義は誰なのか?
によって頭金の出資者が決まります。
ケース①
全額、夫名義の口座に預金していた
↓
そして頭金は全額夫の口座から出した
↓
夫が所有権を持つ
ケース②
夫と妻名義の口座に分けて預金していた
↓
頭金はそれぞれの口座から出した
↓
夫も妻もそれぞれの出資額分の所有権を持つ
✅頭金、住宅ローンを含めてその人が負担した金額 ÷ 土地・建物の取得にかかった費用 =「持分割合」
ペアローンを利用して住宅ローンを組んだ場合の「持分割合」は?
ペアローンは夫婦がそれぞれ1本ずつ、合計2本のローンを組む借り方です。
原則、それぞれが出資した割合で決める
それぞれの「住宅ローンの借入金額」=「持分割合」
(例)物件価格:5,000万円
ケース①
頭金も借入額も同額の負担
頭金
夫 500万円
妻 500万円
住宅ローン
夫 借入額 2,000万円
妻 借入額 2,000万円
夫婦それぞれが出資した金額は以下の通りとなります。
夫 2,500万円
妻 2,500万円
結果、持分割合は以下のようになります
夫1/2(50%)
妻1/2(50%)
ケース②
頭金は同額でも借入額が異なる
夫 借入額 3,000万円+頭金 500万円→出資額:3,500万円
妻 借入額 1,000万円+頭金 500万円→出資額:1,500万円
↓
持分割合は
夫 7/10(70%)3,500万円/5,000万円
妻 3/10(30%)1,500万円/5,000万円
連帯債務を利用して住宅ローンを組んだ場合の「持分割合」は?
連帯債務型とは、1つの住宅ローンを夫婦がともに債務者になる借り方です。
●夫婦間での住宅ローンの借入額の負担割合は、お互いの収入の割合などを目安にして自由に決めることができる
●連帯債務における「持分割合」についても夫婦間で自由に決めて登記することができる
連帯債務の場合「ローンの負担割合」も「所有権の持分割合」も夫婦間の話し合いで決定することができますが、所得金額などを考えて合理的に決めなければ、贈与税が課税される可能性が出てきます。
原則、それぞれが出資した割合で決める
それぞれの「住宅ローンの債務の負担割合」=「持分割合」
(例)
夫の年収が600万円
妻の年収が400万円
物件価格:5,000万円
自己資金(頭金):1,000万円
★住宅ローン:4,000万円を連帯債務で借りた場合
ローンの負担割合
夫 6/10(60%)債務額:2,400万円
妻 4/10(40%)債務額:1,600万円
ケース①
1,000万円の頭金は、夫・妻それぞれの口座から500万円ずつ出した場合
夫の債務額2,400万円+頭金 500万円→出資額:2,900万円
妻の債務額1,600万円+頭金 500万円→出資額:2,100万円
↓
持分割合
夫 58% (2,900万円/5,000万円)
妻 42% (2,100万円/5,000万円)
ケース②
1,000万円の頭金を夫の口座から出した場合
夫の債務額2,400万円+頭金 1,000万円→出資額:3,400万円
妻の債務額1,600万円+頭金 0円→出資額:1,600万円
↓
持分割合
夫 68%(3,400万円/5,000万円)
妻 32%(1,600万円/5,000万円)
連帯保証を利用して住宅ローンを組んだ場合の「持分割合」は?
連帯保証型とは、1人の債務者(借りる人)が1つの住宅ローンを組む借り方です。
そのため所有権は住宅ローン債務者の単独名義となります。
連帯保証人には持分が与えられないので、持分割合を決める必要がありません。
例えば夫が債務者、妻が連帯保証人であれば、取得した物件は夫の単独所有となります。
上記3パターンの中で唯一、持分割合を決めなくてよい借り方です。
※連帯保証人側のご両親からの援助資金がある、あるいは連帯保証人自身の貯蓄からお金を出したといった場合には、実際に出した資金の金額分は所有権を持つことができます。
「持分割合」「負担割合」は住宅ローン控除に影響してくる
住宅ローン控除とは?
住宅ローンを利用して住宅を取得する方の金利負担の軽減を図るための制度です。条件に応じて「所得税の還付」と「住民税の控除」を受けることができる節税効果の高い制度となっています。
★住宅ローン減税の控除額
①年末の住宅ローンの残高の0.7%を所得税から控除
②❶で控除しきれなかった分は、住民税からも一部控除(上限9.75万円)
③控除期間は13年間
ペアローンの場合の「住宅ローン控除」と「住宅ローン負担割合」
ご夫婦がそれぞれにローン契約を結びますので、それぞれのローン残高に応じた金額が「住宅ローン減税」の対象となります。そのため、ご夫婦がそれぞれいくらずつ住宅ローンを組むのかが重要になってきます。
住宅ローン控除の留意ポイント
●住宅ローン控除は「所得税」と「住民税」から控除される
つまり住宅ローン控除は税金の負担があることが大前提ということ
例えば、現在、まだ子どもはいないが将来的には子どもがほしい、あるいは子どもはすでにいるけれどもう一人ほしいといったご家庭の場合、将来、子どもが生まれて奥様が育児休業を取得された場合、産休・育休期間中は他に収入がなければ住宅ローン控除を利用できません。
産休・育休中は「出産手当金」や「育児休業給付金」をもらいます。これらには税金がかかりません。つまり、所得税や住民税の負担がないので住宅ローン控除の対象とならないのです。
もちろん、翌年以降に職場復帰して税金の負担が発生すれば、再び住宅ローン控除を利用できるようになります。
(例)
夫の年収:400万円
妻の年収:400万円
物件価格:5,000万円
自己資金(頭金):1,000万円
借入金額:4,000万円
金利:0.6%
返済期間:35年
返済方法:元利均等
ペアローンで住宅ローンを利用した
ケース①
夫婦で同額の住宅ローンを組んだ
夫 借入金額 2,000万円(負担割合:50%)
妻 借入金額 2,000万円(負担割合:50%)
住宅ローン控除額は13年間で
夫 約148.7万円
妻 約148,7万円
ご夫婦で297.4万円となります。
ですが、
家を建てた2年後と5年後に、奥様が育児休業を1年間ずつ取得する予定としたら…その2年間分は住宅ローン控除の対象とはなりません。
住宅ローン控除は13年間で
夫 約148.7万円
妻 約123.3万円
合計272万円となり、育児休業を取得しないケースに比べて控除額が25.4万円少なくなることになります。
ケース②
住宅ローンをご主人様の負担をが多めに、奥様の負担を少なめにして組んだ
夫 借入金額 2,700万円(負担割合:67.5%)
妻 借入金額 1,300万円(負担割合:32.5%)
住宅ローン控除額は13年間で
夫 約200.2万円
妻 約 79.8万円
合計で280.0万円となり、負担率50%・50%に比べて控除額が増え、住宅ローン控除の恩恵を少しばかり多く受け取れそうです。
ペアローンで住宅ローンを利用した場合のローン控除申請における留意点
それぞれの借入額がローン控除の額に反映されます。これから育児休業を取る予定、子どもが生まれたら時短勤務にする予定など、収入が減る可能性があるご家庭の場合は、それぞれの負担割合を決める際には、住宅ローン控除の増減も視野に入れて検討されてもいいのではないでしょうか?
連帯債務の場合の「住宅ローン控除」と「住宅ローン負担割合」
連帯債務の場合、夫も妻も債務者となりますので、2人とも住宅ローン控除を申請することができます。
夫と妻それぞれがローン控除で使える年末の借入残高は、住宅ローンの残高全体のうち夫婦間で決めた住宅ローンの負担割合となります。
「連帯債務で組んだ場合は住宅ローン控除の対象額をどうやって計算するの?」
控除の対象となる金額は、
①住宅の所有権を登記した際の持分割合
②住宅ローンの返済負担割合
で決まります。
①「持分割合」は、出資した金額の負担割合
②連帯債務の負担割合は、所得金額等に応じて合理的に定める必要があり、夫が妻に代わって負担する借入金は、夫から妻に対する贈与となる
✅連帯債務の場合、住宅ローン控除の対象となる夫婦間での債務の負担割合は、取得した住宅の登記する際の持分割合と同じにするのがベスト
(例)
ペアローンで利用した例と同じ条件で試算
ケース①
1,000万円の頭金は、夫・妻それぞれの口座から500万円ずつ出資した
お互いの年収が同じなので持分割合は、
夫 所有権(持分)1/2(50%)2,500万円(ローン:2,000万円+頭金500万円)
妻 所有権(持分)1/2(50%)2,500万円(ローン:2,000万円+頭金500万円)
となります。
ケース②
もし、借入金額の負担割合を所有権の持分割合と違う割合で申請した場合
夫 借入金額 2,700万円(負担割合:67.5%)
妻 借入金額 1,300万円(負担割合:32.5%)
↓
夫の持分割合が1/2なので、負担割合は2,700万円で申請しても、ローン控除対象額となるのは2,000万円
妻の持分割合が1/2なので、負担割合を1,300万円で申請すれば、ローン控除対象額となるのも1,300万円
これでは住宅ローン控除において損をしてしまいます。
連帯債務で住宅ローンを利用した場合のローン控除申請における留意点
⭐資金負担割合と、登記した持分割合が違っていると、年末のローン残高の一部しか住宅ローン控除の対象とならない場合があるので注意が必要
持分割合から考えれば、本来は、住宅ローン4,000万円の1/2(50%)の2,000万円は妻が負担するべきなのです。ですが、1,300万円と申告しているため、その差額700万円は夫が代わりに負担している、つまりこの700万円は夫から妻への贈与とみなされ、贈与税の課税対象となる場合もあるので注意が必要
⭐夫が主債務者、妻が連帯債務者となる住宅ローンの組み方をしていて、土地の名義を夫、住宅の名義を妻というように資産ごとに持分を分けて登記した場合、住宅の名義を持たない夫は住宅ローン控除の適用外になります。住宅ローン控除は文字通り居住する住宅のための控除制度です。土地のみの名義人は利用することができません。つまり、建物を夫婦2人の共有とすることで、夫婦ともに住宅ローン控除が受けられるようになるのです。ちなみに建物のみの持分の場合は、住宅ローン控除の利用は可能です。
まとめ
夫婦の収入を合算した住宅ローンを利用して取得した土地や建物の「持分割合」や「負担割合」には、贈与税や税法が深く関わってきます。税法には期限が定められているものや、数多くの特例があり、とても複雑な内容となっています。住宅の共有持分については、自分たちだけで判断せずに、登記を行う前に税務署や税理士等に確認しておくことをお勧めします。
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